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労働安全衛生法の「常時50人以上」の数え方と、超えたら必要な手続き

公開日: 2026年8月27日 監修: 村上 郁也(産業保健師) 読了目安: 約9分

産業医の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックの実施——労働安全衛生法の義務の多くは「常時50人以上」を境に発生します。ところがこの50人、数え方を間違えている会社が本当に多いのです。会社全体で数えてしまう、パートを外してしまう、派遣社員をどちらで数えるか分からない。この記事では、公的資料をもとに数え方を整理し、超えたときに必要な手続きと、人数に関係なく必要なことまでをまとめます。

50人は「会社」ではなく「事業場」で数える

最初のつまずきがここです。労働安全衛生法は「事業場」を単位として適用されます。会社全体の従業員数ではありません。

事業場とは、工場・事務所・店舗のように、一定の場所において相関連する組織のもとに継続的に行われる作業の一体を指します。同一の場所にあるものは原則としてひとつの事業場、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場として扱われます(労働局の「安全衛生管理体制のあらまし」等による)。

ケース判定
本社50人・支店30人(会社全体80人)本社のみが50人以上の義務の対象。支店は対象外
1か所に40人(会社全体40人)50人未満。産業医・衛生管理者の選任義務は生じません
本社30人・工場60人工場のみが対象

「会社全体で80人だから産業医が必要」と考えると誤ります。逆に、会社の規模が小さくても1か所に50人が集まっていれば義務が発生します。

なお、出張所や売店など規模が著しく小さく組織的な独立性がない場所については、直近上位の組織と一括して扱われる場合があります。判断に迷う場合は所轄の労働基準監督署にご確認ください。

誰を数えるのか——雇用形態別の早見表

数えるのは、日雇労働者やパートタイマー等の臨時的労働者を含めて、常態として使用している労働者の数です。「常時使用する」という言葉から正社員だけを思い浮かべがちですが、そうではありません。

雇用形態50人のカウント
正社員含める
パート・アルバイト含める。勤務日数・勤務時間の多少にかかわらず、常態として雇用していれば対象です
契約社員含める
派遣社員派遣先・派遣元の双方が、それぞれ自らの事業場の人数に含めて算出します
休職者(育児・介護休業、病気休職)雇用関係が継続しているため含めるのが原則です。長期休職者の扱いは所轄署にご確認ください
役員労働者に当たるかどうかで判断されます。使用人兼務役員など、判断に迷う場合は所轄署へ
請負・業務委託の作業者含めません。雇用関係がなく、雇用主である請負会社側で扱われます
POINT

週1日しか出勤しない短時間のパートでも、継続して雇用しているなら人数に入ります。ここを外して数えていて、実は50人を超えていた——という例は珍しくありません。

「50人の数え方」と「健診・ストレスチェックの対象者」は基準が違う

同じ「常時使用する労働者」という言葉が使われるため混同されますが、目的が違えば基準も違います。ここが実務でいちばん混乱する部分です。

対象50人以上かの判定健診・ストレスチェックの実施対象者
短時間のパート(週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3未満)含める含めない
派遣先で受け入れている派遣労働者含める含めない(実施義務は派遣元)

健康診断やストレスチェックの実施対象者は、①契約期間の要件(期間の定めのない労働契約により使用される者。有期でも契約期間が1年以上の者などを含む)と、②1週間の労働時間数が同種の業務に従事する通常の労働者の所定労働時間数の4分の3以上であること、の両方を満たす人です。

つまり、短時間パートを含めて数えたから50人を超えて義務が発生したのに、そのパート本人は健診・ストレスチェックの実施対象ではない、というねじれが実際に起こります。矛盾ではなく、そういう制度です。

労働基準監督署に提出する報告書の「在籍労働者数」の数え方については、様式6号の2の書き方と記入例で詳しく解説しています。

50人を超えると、何が変わるか

常時50人以上になると、それまで努力義務だったものが法的義務に変わり、労働基準監督署への届出が必要な手続きも発生します。しかも選任は「14日以内」と、思っているより猶予がありません。

何をするかいつまでに様式提出先
衛生管理者の選任事由発生から14日以内に選任し、遅滞なく報告様式第3号所轄労働基準監督署
産業医の選任事由発生から14日以内に選任し、遅滞なく報告様式第3号所轄労働基準監督署
衛生委員会の設置遅滞なく設置。毎月1回以上開催届出は不要―(議事の記録を保存)
ストレスチェックの実施1年以内ごとに1回
ストレスチェックの結果等報告実施後、遅滞なく様式第6号の2所轄労働基準監督署
定期健康診断結果報告書の提出健診実施後、遅滞なく様式第6号所轄労働基準監督署

業種によっては、これに加えて安全管理者・安全委員会・総括安全衛生管理者の選任等が必要になります。規模の要件が業種ごとに異なるため、製造業・建設業・運送業などに該当する場合は所轄の労働基準監督署にご確認ください。

つまずきやすい3点

なお、選任報告や健診結果報告書は、厚生労働省の労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス ↗で作成できます(作成後、印刷して提出します)。

人数に関係なく、やらなければならないこと

「うちは50人未満だから何もしなくていい」——これは、いちばん多い誤解です。労働安全衛生法の義務の多くは規模を問いません。50人という線引きがあるのは、あくまで「体制づくり」と「監督署への報告」の部分です。

やること内容50人以上との違い
健康診断の実施雇入時健診、定期健診(1年以内ごとに1回)実施はすべての事業場で義務。結果報告書(様式第6号)の提出だけが50人以上
安全衛生教育雇入れ時、作業内容を変更したとき規模を問わず
労働時間の把握客観的な方法による把握規模を問わず
長時間労働者への面接指導時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者から申出があったとき規模を問わず
労働災害の防止措置危険・有害な業務への安全衛生上の措置規模を問わず
労働者死傷病報告労働災害等で労働者が死傷したときに、所定の様式で所轄労働基準監督署へ報告規模を問わず
ストレスチェック心理的な負担の程度を把握する検査現在、50人未満は努力義務。2028年4月から全事業場で義務化

長時間労働者への面接指導は、上表が原則の取り扱いです。研究開発業務に従事する労働者や、高度プロフェッショナル制度の対象労働者については、これとは別の基準が定められています。該当する労働者がいる場合は個別にご確認ください。

つまり、50人を境に「ゼロが1になる」わけではありません。健診も、教育も、労働時間の把握も、1人でも雇っていれば必要です。50人で変わるのは、それを担う「人」を置き、「監督署に報告する」ことが加わるという点です。

そして2028年4月からは、ストレスチェックも規模を問わず義務になります。50人未満の事業場にとっては、これが実質的に「産業保健の体制を初めて考えるきっかけ」になります。

50人に近づいたら、いつ動くか

選任は事由発生から14日以内。この2週間で、産業医を探し、面談し、契約を結び、選任報告まで出すのは現実的ではありません。

実務的には、45人前後から動き始めるのが安全です。具体的には次の順序になります。

特に衛生管理者は資格が必要なため、社内に有資格者がいない場合は準備に数か月かかることがあります。人数が増えてから慌てるより、見通しが立った時点で着手しておくほうが確実です。

よくある質問

本社と支店の人数は合算して50人と数えますか?
合算しません。労働安全衛生法は事業場を単位として適用されるため、本社・支店・工場などの事業場ごとに人数を数えます。会社全体で80人でも、本社50人・支店30人であれば、50人以上の義務が発生するのは本社だけです。
派遣社員は50人のカウントに含めますか?
含めます。派遣中の労働者については、派遣先の事業場と派遣元の事業場の双方で、それぞれ自らの事業場の常時使用する労働者の数に含めて算出するものとされています。ただし、ストレスチェックや健康診断の実施義務は雇用主である派遣元にあり、報告書に記入する在籍労働者数とは基準が異なります。
パート・アルバイトも50人に含めますか?
含めます。事業場の規模を判断するときの人数は、日雇労働者やパートタイマー等の臨時的労働者を含めて、常態として使用する労働者の数で判断します。週1日しか出勤しない短時間のパートでも、継続して雇用しているのであれば人数に入ります。
役員は50人のカウントに含めますか?
労働者に当たるかどうかで判断されます。使用人兼務役員など、実態として労働者性が認められる場合は含まれ得ます。判断が分かれる領域のため、迷う場合は所轄の労働基準監督署にご確認ください。
繁忙期に一時的に50人を超えた場合も義務が発生しますか?
人数は「常態として使用する労働者の数」で判断されます。一時的な増加のみで直ちに義務が生じるとは限りませんが、継続的に50人を超える見込みであれば準備を始める必要があります。個別の判断は所轄の労働基準監督署にご確認ください。
50人を超えたら、いつまでに産業医を選任する必要がありますか?
選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、遅滞なく様式第3号による選任報告を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。産業医や衛生管理者の確保には時間がかかるため、45人前後になった段階で動き始めるのが現実的です。

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村上 郁也 産業保健師・健康経営エキスパートアドバイザー

横浜産業保健師事務所VITAL BASE。大学病院看護師・行政保健師を経て、東証プライム上場企業の産業保健師として健康経営・産業保健マネジメントを主導。現在は中小企業の産業保健体制づくりとストレスチェック実施の現場を支援しています。事務所サイトへ ↗

出典・参考資料

本記事は、次の厚生労働省・都道府県労働局・独立行政法人労働者健康安全機構の公表資料をもとに構成しています。

本記事は公開日時点の情報にもとづく一般的な解説であり、個別の事案についての判断を保証するものではありません。事業場の実情によって取り扱いが異なる場合があるほか、所轄の労働基準監督署によって説明が異なることもあります。最新の様式・手続きは厚生労働省の公表内容をご確認いただき、判断に迷う場合は所轄の労働基準監督署にご確認ください。

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