Column · 法改正解説

ストレスチェック義務化は2028年4月から50人未満も対象に。
中小企業がいま準備すべきこと

公開日: 2026年7月13日 監修: 村上 郁也(産業保健師) 読了目安: 約7分

「うちは50人未満だから、ストレスチェックはまだ関係ない」——そう考えている経営者・人事担当者の方は少なくありません。しかし、2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法により、この“50人の壁”はなくなります。この記事では、何がいつから変わるのか、そして小さな会社が今から何を準備すべきかを、産業保健の実務目線で解説します。

結論: いつから・誰が・何をする

最初に要点をまとめます。

何が変わる従業員50人未満の事業場でも、ストレスチェックの実施が努力義務から義務になります
根拠改正労働安全衛生法(2025年5月14日公布)
施行日2028年4月1日(厚生労働省 労働政策審議会 安全衛生分科会にて提示)
初回実施の期限施行後1年以内 = 2029年3月31日までに1回目の実施が必要
頻度年1回以上(現行の50人以上の事業場と同じ)

※ 施行期日・詳細な運用は今後の政令・省令等で最終確定します。最新情報は厚生労働省の公表資料をご確認ください。

これまでのルール——“50人の壁”とは

ストレスチェック制度は2015年12月に始まりました。労働安全衛生法にもとづき、常時50人以上の労働者を使用する事業場には、次の3点が義務づけられています。

一方、50人未満の事業場は「当分の間、努力義務」とされてきました。この線引きが、いわゆる“50人の壁”です。日本の企業の大多数は50人未満の事業場であり、働く人のメンタルヘルス対策に大きな空白が残っていました。

2028年、何が変わるのか

2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法により、ストレスチェックの実施義務がすべての事業場に拡大されます。施行は2028年4月1日とされ、施行から1年以内——つまり2029年3月31日までに初回の実施が必要になります。

ポイントは、これが「規模の小さい会社への配慮つきの制度」として設計されつつあることです。審議会では、50人未満の事業場については労基署への報告義務を当面課さない方向や、外部資源の活用を前提とした実施体制が議論されています。とはいえ、「実施しなくてよい」わけではありません。実施・結果通知・面接指導の体制づくりは、どの規模の会社にも等しく求められます。

POINT

直接の罰則がない義務であっても、未実施のまま従業員のメンタルヘルス不調が起きた場合、安全配慮義務違反(民事上の責任)を問われるリスクがあります。「罰則がないからやらない」は、経営リスクの観点で成り立ちません。

やるべきことは6つ

初めてストレスチェックを実施する会社がやることは、次の6ステップに整理できます。

  1. 方針の決定と社内周知 — 実施目的(不調の未然防止であり、人事評価には使わない)を経営者が明言する
  2. 実施体制づくり — 実施者(医師・保健師等)と実施事務従事者を決める。外部委託も可
  3. 実施規程の整備 — 対象者・実施時期・結果の取り扱い・面接指導の流れを文書化する
  4. 実施(受検) — 調査票(国推奨は職業性ストレス簡易調査票57項目)で年1回実施。Web受検が主流
  5. 結果通知と面接指導 — 結果は本人に直接通知。高ストレス者から申し出があれば医師の面接指導を実施
  6. 集団分析と職場改善 — 部署ごとの傾向を分析し、職場環境の改善につなげる(現行は努力義務)

重要なのは、個人の結果は本人の同意なく会社に共有されないという大原則です。ここが守られていないと、従業員は正直に回答できず、制度そのものが形骸化します。

小規模企業がつまずく「3つの壁」

① 実施者の壁 — 医師・保健師をどう確保するか

ストレスチェックの実施者になれるのは、医師・保健師、および所定の研修を修了した看護師・精神保健福祉士・公認心理師等に限られます。50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、外部の実施者に委託するのが現実的です。地域産業保健センター(地さんぽ)の無料支援や、実施者つきの外部サービスを活用しましょう。

② プライバシーの壁 — 「誰が結果を見られるか」の設計

小さな会社ほど「社長に結果を見られるのではないか」という不安が生まれやすく、受検率と回答の正直さに直結します。結果を扱えるのは実施者・実施事務従事者のみという権限分離を、運用ルールではなくシステムの仕組みとして担保できるかが鍵です。集団分析も、個人が推測されないよう10人未満の集団は表示しないのが原則です。

③ 手間の壁 — 紙の配布・回収・集計は現実的でない

紙での実施は、配布・回収・封入・集計・保管のすべてが人事の負担になります。兼任の担当者が1人で回す小規模企業こそ、受検案内の配信から未受検者のリマインド、集計、帳票作成までを自動化できるWeb実施が向いています。

費用の目安と、使える支援制度

外部委託の相場は、Web受検ベースで1人あたり数百円〜1,000円程度/年が目安です(面接指導・集団分析が別料金の場合があります)。50人の事業場なら年間数万円のオーダーであり、体制づくりを含めても大きな投資ではありません。

また、商工会議所や事業協同組合などの事業主団体を経由する場合、「団体経由産業保健活動推進助成金」(労働者健康安全機構)を活用できる可能性があります。令和7年度は活動費用の5分の4・上限100万円(各団体・年度1回)が助成されます。

※ 助成率・上限は年度によって変わります。最新の交付要領をご確認ください。

よくある質問

従業員数は会社全体で数えますか?事業場ごとですか?
事業場(本社・支店・工場などの単位)ごとに、常時使用する労働者の数で判断します。パート・アルバイトの方も、継続して雇用していれば「常時使用する労働者」に含まれるのが原則です。改正後は人数にかかわらず、すべての事業場が実施義務の対象になります。
実施しないと罰則はありますか?
実施義務そのものへの直接の罰則は定められていません。ただし、従業員50人以上の事業場には労基署への報告義務があり、報告を怠ると50万円以下の罰金の対象になります。また、未実施のまま従業員のメンタルヘルス不調が生じた場合、安全配慮義務違反を問われるリスクがあります。
産業医がいない小さな会社は、誰が実施者になるのですか?
実施者は医師・保健師、または所定の研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師等に限られます。自社に産業医がいない場合は、外部の医師・保健師への委託や、地域産業保健センター(地さんぽ)の活用が現実的です。クラウド型サービスと外部実施者の組み合わせが小規模事業場では主流になりつつあります。
2028年より前に始めるメリットはありますか?
あります。施行直前は外部サービス・実施者の需要が集中し、選択肢が狭まることが予想されます。また、ストレスチェックは1回で終わりではなく「実施→分析→職場改善」の積み重ねで効果が出る制度です。早く始めるほど、経年のデータが自社の資産になります。

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村上 郁也(産業保健師)

大学病院看護師・行政保健師を経て、東証プライム上場企業の産業保健師として健康経営・産業保健マネジメントを主導。健康経営エキスパートアドバイザー。合同会社VITAL SYNC 代表社員。

出典・参考: 改正労働安全衛生法(2025年5月14日公布)/厚生労働省 労働政策審議会 安全衛生分科会資料/厚生労働省「ストレスチェック制度導入マニュアル」/労働者健康安全機構「団体経由産業保健活動推進助成金」令和7年度手引。本記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。施行期日・運用の詳細は今後の政令・省令等で確定するため、最新の公的情報をあわせてご確認ください。